カラタクDJストーリー#1 satch a.k.a ウェイヨー

ラフ&ピースが手掛ける“音楽でつながる人とお店”をキーワードにしたウェブサービス「カラタクⓇ」との連動企画。DJを通じて音楽を楽しむ愛好家たちの姿を対談形式でお届け。生計を立てる本業ではなく、ホビーとして誰でも手軽にDJをスタートできるようになった現在、様々な人がこのカルチャーに触れ、各々のライフスタイルを彩っている。
記念すべき最初の語り手は、割烹DISCO大蔵シェフでありHIPHOP DJとしても活動するsatch a.k.a ウェイヨーさんをお迎え。DJカルチャーとの出会いや、その思い入れを語ってもらった。
■なんかビートがカッケエ!
・DJを始めた/または興味を持ったきっかけは何でしょうか?
DJを始めたのは15歳くらいだと思います。僕には4つ年上の兄がいるのですが、ある日、兄の部屋に突然ターンテーブルとレコードが設置されて(笑)
従兄弟がHIPHOPのDJをしていて、もうやめるからということでコレクションをまるごと全部兄に譲ってくれたんですよ。その時、生まれて初めてレコードを触らせてもらって。それまでCDしか触ったことがなかったから、針を落とした時に「本当に音が出る!!」って感動したのを覚えています。兄が家にいない時に部屋に忍び込んで勝手に遊んでました(笑)
・HIPHOPとの出会いもその時?
中学2年生くらいからラップは聴いてました。そもそも兄が普段からラップのCDとかミックステープなんかを聴いていて、その影響から。はじめは、「このお経みたいな歌と、‟キュワキュワ”って変な音なんだろう?でもなんかビートがカッケエ」って思ってました。キュワキュワって音がレコードを前後に動かして出す“スクラッチ”のことだって教えてもらった時は本当に驚きましたね(笑)
それで近所にあった中古CD屋さんに通って。最初は何買っていいか分からないから、「とにかくだぶだぶな服着てるヤツが映ってるジャケットのにしよう!!」って。その時初めて買ったのがMCハマーのアルバムっていう(笑)でもそのアルバムめちゃくちゃカッコ良かったんですよ!それからは兄に教えてもらったアーティスト名をメモした紙を持って行って。パブリックエナミーとかウータンクランとかナズとか買ってました。
・英才教育だ(笑)。それからずっと続けているとしてDJ歴は何年になりますか?
初めて人前でDJをしたのが16歳だから23年です。たまたま街で会った先輩が今度やるイベントでDJ足りないからお前やってくれよみたいな感じで。生まれて初めてクラブに行ったのもその時。夜にレコード担いで出かけるのを親に見つかって、ごまかせないから「行かせてください!!」ってお願いして(笑)それから友達とイベント開いたりしたんですけど、20歳くらいでDJはやらなくなっちゃった。バンドに夢中になっちゃって(笑)
・バンドは音楽好きの少年が通りがちな王道ですからね(笑)どんなバンドだったんですか?
ACIDMANなんかのコピーバンドだったんですけど、僕がハードコアとかエモが好きだったので、国内外のエモバンドのCDをメンバーに無理やり聞かせて、そんな感じのオリジナル曲を作ってました。2000年代頭くらいだから、日本でもエモみたいなのが流行り出すタイミングだったんじゃないですかね?所謂スクリーモとかが人気になって。だけど僕が上京することにして、バンドはやめちゃいました。そもそも僕が楽器ど下手だったし(笑)
■誰かと一緒に音楽を聴く楽しみがある
・上京後に生活環境が変わってからDJに回帰していった感じでしょうか?
いや、それが全くDJをしようとは思わなかったんですよ。たまにライブハウスに行ってたけど、クラブとかDJバーみたいな場所には全然……。ひとり暮らしで、ターンテーブルはあるからレコードは買うんだけど、人の前に立ってDJしようとは思わなかったです。それで、就職してしばらくしたら地方に転勤になるんですけど、そこでとある出会いがあって。
・なるほど。どんな出会いですか?
愛知県にいた頃、ふとしたきっかけで地域のローカルFM局のディレクターさんと仲良くなって、話してみたら「月イチで雑貨屋さんの店内を借りてDJしてるから遊びにおいでよ」って。
機材はそのディレクターさんの持ち込み。テクニクスのターンテーブルは無いから僕が家から持ち出して。手作り感満載のパーティーだったけど本当に楽しかった。友達もできて嬉しかったです。
・素敵ですね。そこからまたDJに戻っていく感じ?
戻るというか、ずっとレコードやCDは買っていたんだけど「誰かと一緒に音楽を聴く楽しみがあるな」って実感したんです。一緒に音楽を聴いておしゃべりして、友達になって。こんな風に友達が増えるならDJやるのも悪くないなって。
・良い話だ。他にもDJをしてきて忘れられない思い出はありますか?
また転勤になって山梨にいた頃、地元で活躍するバンドと仲良くなって、アルバムを出すからレコ発ライブをやるというので、じゃあお祝いさせろ‼って(笑)
なかば無理やりDJやらせてもらったんですよ。そこで普段は全くDJに触れない人たちの前でプレイしたのが思い出に残っています。バンド畑の人からしてみると、DJってどうしても「パリピ」な感じがあったみたいで。でも僕自身はそういうタイプじゃないから、音楽を流して「雰囲気や空間をプロデュースする」感じだよって説明して。それでJAZZ、SOULなんかのネタ感強めなブレイクビーツを流すんですけど、僕の姿を見て「DJがその場で選曲することでこんなに雰囲気が変わるの、知らなかった」って言ってもらえたのは本当に嬉しかった。DJ、もっとやってみようかなって思いました。
・DJのステレオタイプなイメージがありますもんね(笑)でもそうじゃないDJも沢山いるんだっていう。
本当にそう思います。パーティーでガンガン盛り上げて躍らせるのも醍醐味だけど、本当に大事なのはその場にいる人が音楽に耳を傾けて会話したり、仲良くなることだと思っていますから。DJはそのためのお手伝いというか。
・そんなsatchさんが好きなDJというか、影響を受けたのはどんなDJですか?
(しばらく考え込んで)
DJ NOZAWAさんやDJ FUNNELさんのプレイにはすごく影響を受けました。いわゆるJazzy HIPHOPとかが流行ってた頃、RAPとかブレイクビーツ中心の選曲に菅野ようこさんとか高木正勝さんの楽曲をスムースに入れていて、衝撃的でしたね。エレクトロニカとかダウンテンポのビートミュージックとHIPHOPをチルアウトな解釈でミックスさせたり。HIPHOPっていうのはスタイルであって、何を流したらこのジャンルだっていう決まりはなくて、テクスチャーとしてではなく、芯というか心根に宿るものなんだなって本気で思いました。大好きですね。
■ブースに立てば誰もがヒーローになれる。
・様々な場所でDJをされてきたと思いますが、お気に入りのお店はありますか?
やっぱり割烹DISCO大蔵かな(笑)
転勤から東京に戻ってきて、またDJしようと思ってどこか近所に良いお店無いかなと探していた時に、たまたまSNSで知って通うようになりました。居酒屋的カジュアルさで食事をしながらDJも楽しめるっていうスタイルは唯一無二だったと思います。大蔵があったから音楽の話で一緒に盛り上がれる友達もたくさんできた。大蔵で初めてDJした時は凄く緊張してて(笑)そこまで経験豊富じゃないし、流すのも古いRAPばっかりだから不安だったんですけど、めちゃくちゃ喜んでもらえて。なんか受け入れてもらえた気がしたし、DJやめないで練習しててよかった~!って思いましたね(笑)
そして今は社員として働いているっていう(笑)
・DJをすることで生活に彩りができた?
本当にそうですね。自分の持っている視野を超えて、いろんなスタイルでDJや音楽文化を楽しんでいる人がいるんだって知りました。ブースに立てば誰もがヒーローになれるというか、技術的な上手い下手じゃなく、DJっていうのが身近なホビーなんだっていうことを教えてくれましたね。
・まさに「MUSIC is MY HERO」ですね。
そうそう。それを言いたかった(笑)
・カラタクについてはどんな期待を持っていますか?
今まではDJって箱なりバーなりの現場でプレイするために自分の足でお店を探して、店舗スタッフさん達とコミュニケーションをとってオファーをもらってDJさせてもらうっていう、どちらかというと受け手側というか「待ち」の姿勢になりがちだったと思うんです。カラタクはどこかでプレイしたい!ってDJの能動的な気持ちをサポートしてくれるシステムだと思っていて。
お店としてもカラタクでDJさんがWEB上でエントリーしてくれたらそれは来店予約の代わりになるというか、双方にとっての出会いとか集客につながるものだと思っています。このサービスが広まって、僕みたく誰かと音楽を共有することが好きな人間が増えたら最高ですね。
・satchさんにとって、DJとはどんなものでしょうか?
いろんなスタイルや考えがあるだろうけど、僕にとってDJって、一部の人しか触れられない特別なものじゃなくて。音楽を流すことでそれを聴いてくれている誰かと喜びとかいろんな感情を共有させてくれる素敵なホビーなんだって思います。音楽は世界を変えられないかもしれないけれど、目の前の人を喜ばせることはできる。この気持ちだけで誰でもHEROになれるんだって、そう思います。
————————————————————-
【satch a.k.a ウェイヨー】
割烹DISCO大蔵シェフ。LP Magazine編集長。中学生時代からHIPHOPに親しみ、バンド活動などを経てHIPHOP、ELECTRONICAを主軸にDJ活動を行う。現在はMidtempo Bassの魅力にとりつかれ、日本ではマイナーなこのジャンル布教のため、mixcloudでのmix発表を精力的に行う。
【カラタクⓇ】
「MUSIC is MY HERO!」
音楽でつながる人とお店。DJブースを活用した飲食店と人を繋げるWEB集客サービス。登録加盟店舗随時募集中。
【interview/text】
佐藤 徹平(LP Magazine)