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Written by原田 透子
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うしろじゃなくて上にいるらしいよ

うしろじゃなくて上にいるらしいよ

うしろじゃなくて上にいるらしいよ

 

夏といえば怪談、とかいう奇妙な風習がそれとなく根付いているが、これの起源が農村で行われていた「盆狂言」だというのはご存じだろうか。

 

お盆は死者の霊魂がこちらへ帰ってくるといわれる時期。

数多の魂のなかには、もう祀るひとのいない無縁仏や、やりきれない思いを抱いたままの怨霊めいたものも含まれている。

そうした浮かばれない霊魂たちの怒りや苦しみ、悲しみを沈めて成仏を祈る鎮魂の芸能が、「盆狂言」だ。

 

やがてそれが歌舞伎に受け継がれ、夏の涼み芝居として幽霊の出る演目が上演されるようになる。

 

夏=怖い話、ってのはここからきているんだそうだ。

さっきググった。

 

そういうわけで今回は、わたしが最近体験したちょっとばかり不思議な話を聞いてほしい。

 

わたしは成人するまで、いわゆるホラーの類から縁遠い人生を送ってきた。

きっかけは小学生のときにたまたまテレビでやっていた「犬神家の一族」のドラマで、ただでさえ不気味な白マスクの佐清が、戦争で焼かれたべろべろの顔を見せつけてくる、というシーンを目撃してしまったことにある。

 

小学生児童にとって、いくら作り物とはいえ焼け爛れた人間の顔なんてものはあまりにもショッキングだ。

わたしは夕食で食べたカレーうどんをすべて戻し、その後しばらく佐清の顔を思い出しては胃の腑がぐっとせりあがる思いをした。

 

以来ホラーがからきしダメになってしまった。

このすぐ後にリングや呪怨がクラス内で大流行りしたものの全力でスルーを決め込んだし、高校のころに横行した悪質なびっくりフラッシュサイトのURLを送ってきた友人のことは120%のグーで殴った。

 

佐清のトラウマもあり、ホラーってやつを見たり読んだり聞いたりしてしまうとわたしはどうしようもなく、生活に支障が出るレベルで恐ろしくなってしまうんだった。

 

これは無駄な想像力のよさの弊害でもあるんだろうが、水場に立つと頭が重くなるし、夜のひとり歩きなんかも背後に集中しすぎて背中が痛くなる。最悪なのは眠るときで、恐ろしいことを思い出してしまうと脈が早まり、真夏だというのに足の先がひんやり凍えるようなのだ。

 

そんなんなるなら見なきゃいいじゃない。

本当にそう思う。

 

わたしってば、「怖いのは苦手」だけど「嫌いではない」んである。

最悪だ。面倒くさすぎる。

 

大きな音やショッキングなビジュアルで突然驚かせてくる、いわゆるジャンプスケアがイヤってだけで、正直グロもゴアもいつの間にか全然平気になっていた。

ホラーによくある呪いだの祟りだのといった恐怖のギミックや、どこか寂しい物語性なんかはむしろ好ましい。

 

身の回りにホラー好きが多かったということもあり「映像がダメなら文章で読めばいいじゃない」という天啓を得るのも時間の問題だった。

 

わたしは特に土着信仰や俗世と隔離されたような農村の因習、それらが生む呪いとか祟りとか怪異にまつわる話がかなり好きで、諸悪の根幹に人間の異常な祈りや悪意がこんがらがっている状態にめちゃくちゃテンションが上がる。

 

分かりやすい作品で言うとゲームの「サイレン」や「零 紅い蝶」、みんな大好き洒落怖の「禁后」「リゾートバイト」。

小説なら芦花公園の「異端の祝祭」がど真ん中に好きだった。

小野不由美の「残穢」は映画を観たあとで小説も読んだけれど、いい意味で本当に最悪だったので皆さんもぜひ読んでほしい。

 

で、だ。

元来怖いものがダメな人間がこんなもんばかり読んでいるとどういうことが起こるかというと、シンプルに悪夢を見る。

 

いくら好きで読んでるとはいえやっぱり怖いものは怖い。相変わらず過剰な感受性のせいで実生活に支障は出まくりだ。

今だってこれを書いていて、なんだか左手首がひんやり痺れてきたような気さえする。

やめろ。

 

洗濯物を干すときにベランダから見える向かいのカーブミラーが気になるし、閉め切らなかった寝室の押し入れの隙間をわざわざ凝視してしまう。

 

いちばん恐ろしいのは風呂場の窓で、我が家の風呂にはルーバー窓というハンドルをくるくる回すことで重なったガラスが開閉するタイプの窓なんだが、ふと見たときにガラスとガラスのあいだからなにかと目が合ったら最悪だな、とかそういういらんことばかり考えてしまう。

ルーバー窓は全開にしないかぎり外から内部が見えることはないから、当然そんなことはないんだけれど。

 

こうやって日常の端々の、「怖いものがいるかもしれない」をいちいち気にして過ごすせいでまあまあの悪夢を見てしまう。

 

それでついこのあいだの、春先のことだ。

わたしはネット上の創作怪談でよくある「自己責任系」の怖い話を読んだ。

まあなんというか、いわゆる呪いをばらまく系のお話で、案の定文章の最後には「これを読んだひとは呪われます」みたいな脅し文句が書かれてあった。

 

当然そんなものは作り話だ、とわかっていてもやはり普通にビビりなわたしは、「呪いってどんなかな、息子をひどい目に合わせたらわたしが祟りになっちゃうな」なんて考える。

 

このあとに見た悪夢がそれはもう最悪だったのだ。

 

わたしは夜、寝室に置いたダブルベッドで息子とふたりで眠っている。

わたしも息子も明かりに敏感なので、ふたつの窓には遮光カーテンを引き、電気もすべて消すので部屋は基本的に真っ暗だ。

眠る前、すうすう寝息を立てる息子のとなりで少しばかりスマホをいじるのが習慣で、その日もいつも通りわたしはベッドに寝転がりながらツイッターを眺めていた。

 

突然左の耳がキーンと耳鳴りし始めて、うわ、と思う。

わたしは元来結構耳鳴りがするタイプで、それはたいていいつも左耳だったのでまたか、という感じだった。

ただいつもと違ったのは、本当に理由を説明できないんだけれど「このまま目を開けていちゃだめだ」と意味不明な、けれども強い直感があったこと。

未だに自分でもわけがわからない。

それでもたしかにあのとき、このまま目を開けていたらいけないということだけは確かに「わかって」いた。

 

わたしは慌ててスマホを枕の下に突っ込んで、体を息子のほうに向けて目をつぶった。

怖い、というより危ない、というふうな気がして、直感の赴くままに目を閉じたくせにわたしは、なんとも呑気なことにそのまま眠りに落ちてしまったらしかった。

 

しばらくしてふっと目を覚ました。

眠りに落ちたときと同じ格好のまま意識がぼんやり覚醒して、なるほどあの耳鳴りも「目を開けてちゃだめだ」という妙な直観も全部夢だったんだな、と気が付く。

ところが、今何時なんだろうと思って枕の下のスマホを確認しようとするとまたひどい耳鳴りがして、同じように目を開けたままではいけないという気になった。

 

さすがに怖くなって、わたしは再びグッと目をつぶる。

醒めきらなかった意識のせいか今一度眠りに転がり落ちるまでに時間かかからず、気が付くとわたしはまた眠っていた。

 

結果的に、朝を迎えて本当に目を覚ますまでわたしは4、5回ほどこれを繰り返した。

いわゆる夢中夢、多重夢というやつなんだろうが、カーテンの隙間から薄明かりが盛れ、ドアの向こうで先に起きた旦那が動き回っているらしい気配に心底安堵した。

 

「目を開けてちゃだめだ」という確固たる直感はあったものの、なにかが這い寄る気配や夢のなかで怪異に襲われるという直接的な恐怖はこれっぽっちもなかった。

それでも同じ夢を何度も繰り返し、自分が本当に目を覚ましていたのかもどこからどこまでが夢なのかもさっぱりわからないのは気分が悪い。

 

なにより奇妙なのは、この夢を見るに至った発端である、ネットで読んだ呪いの話の内容を一切合切覚えていないということだ。

話を読んだ、という事実とその物語が読んだら呪われることを謳った怪談であること以外のすべて忘れてしまっている。

 

さすがにこれ以上あの悪夢を見るのはごめんなのであえて調べなおすようなことはしないが、なんとも不思議な体験だった。

 

呪いだの祟りだの怪異だのが恐ろしいのは、物理攻撃が聞かないからだよなあと常々思う。

この夢を見たあと、風呂掃除の最中に件のルーバー窓からたまたま、外の路地に立っている男性と目が合うことがあったが、そのときのわたしは怪異に対する恐怖のほうが勝っていたせいで「なにひとんち覗いてんだよ気持ち悪いな」というくらいにしか感じなかった。

 

なんせ生身の人間にはグーが効きますからね。

生きてるやつが一番怖い、なんて言いますけど、グーが効く時点で結構良心的だよ。

パンチパンチ。

 

原田 透子

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