
choice is yours

choice is yours
突然だが僕は非常に疲れている
仕事や家庭ではなく
「選択すること」に疲れているのだ。
こんな日は美味しいカレーを食べてクソして寝たい…
そんな気分だ。
僕は昔から優柔不断な性格だ。
レストランでのメニュー選びはギリのギリまで迷い倒し、購入する洋服の色についても小一時間悩み、Amazonだけ見て何も決まらず1日過ごすような日もザラにある。そんな性格は世間的にも「カッコ悪いもの」としてラベリングされ、自身でもわかっていて自虐の対象となる癖だと認識している。とりあえず周りに迷惑のない程度に暮らしたいものだ。
そういった選択とはまた違う話だが
現代は昔に比べても「選択の自由」が増えて
とても良い時代だと思う。
僕が育った頃は土地柄もあり過度な自己表現は「はぐれ者の道」で、しかしテレビドラマや少年漫画では「型にはまらない生き方こそカッコいい」と刷り込まれ「言いたいことも言えないこんな世の中じゃPoison」と言われ…かくいう僕も映画Trainspottingを観て「choose life」の精神とともに平成的安定した暮らしへのアンチテーゼを色濃くしていった。
poison
選択肢の枠外から選択することへの希望と葛藤がそこにはあった。
で今である…
家にいながら様々な情報に能動的にアクセスでき、テレビもラジオもエンタメもビジネスも選択の幅が広がった分
自身で選択することが当たり前になっている
当時はテレビを見ない人を「世間知らず」などと揶揄されることがしばしばあったが、現在でいう世間知らずは「情報弱者」と呼ばれる。選択せずにルーティンに準拠した生活を怠惰とすら取る風潮すらあり、意識の高いインフルエンサーも仕切りに選択することの重要性について語る。
そんな時代に初期装備から優柔不断な僕はというと若干の窮屈さを感じることとなる。持ち前のナイーブさで劣等感を分泌させ、選択し前に進みそれを自信満々に動画等でアピールする人たちに悪態をつくのも格好悪いため、家で自分勝手に
あーーー!!
うるせーーー!!
もう疲れたわ選択よお!!!!
………となって今だ。
腹立たしいのでカレーの話でもしよう
数年前だったか。
僕が住む新潟にスパイスカレーを出すお店ができた。当時大阪で流行していたが老舗カレー屋が数多軒を連ねる神保町に数年間毎日通っていたせいもあり、
「写真撮るための洒落臭いカレーだろ」
とまた悪い癖で斜に構えて興味を示さずにいた。
そんなある日散髪中に美容師とカレーの話になり
「あのお店は知っていますか?」と言われる。
あのお店とはちょうど県内で話題を呼んでおり、いつもキラキラした女性が行列を作ってInstagramにupしているイメージの強いお店だったので当時は懐疑的だった。
しかし美容師が言うにはそのカレー屋はひねくれた店主のナイーブでアーティスティックな面が色濃く表れたお店だという。無類のカレー好きを自称するからには行ってみるか…と思い翌週の平日休みに足を運ぶことにした
「スパイスプッシャー164」
との衝撃の出会いだった。
訪れる前にTwitter等で調べて驚いたのは店主が提示しているいくつかのルールだった。
・4人以上のグループ入店お断り
・おしゃべり目的での入店お断り
・店内での写真はカレーのみOK
・グルメレビューサイトへの投稿お断り
・店主のメンタル次第で急遽休む場合あり
これはラーメン二郎レベルのなかなかにハードな規律である。とはいえ僕も並びがあるのに周囲も気にせず4人以上でワイワイしているような客は嫌いだし、レビューサイトに何様な内容とおじさん特有の気持ち悪い語り口で投稿する人も背筋が凍るほど嫌いなので「むしろありがたい」と思いつつもこれはどんな頑固な方がやっているんだ…と若干怯えながら前屈みになりつつお店に入っていった。
店内には1人で来店した男性客も多く、それぞれ思い思いにカレーを楽しんでいた。お代は先払い。メニュー表をまじまじと見つめているとファンキーながら優しい雰囲気の店主が気さくに対応してくれた。そこで急にはっと気がついた
ここは他者に依存しない頑固者の店ではなく、僕と同じく周囲の配慮の無さに敏感でナイーブな人がやってるお店なのだと。
勝手に気づいて勝手に親近感が湧いた。
動物マグネットは番号札代わりでカレーが配膳されるまでは動物名で呼ばれる。今回の場合は
「ライオンさんお待たせいたしました〜」である。
こういうところも好きだ。
初来店時は店内には結構な音量でsquarepusherが流れていた「いい選曲だな…IDMを聴きながらスパイスカレーが食えるのか…」と思ってふと店内を見渡すと神棚に崇めるようにUltravisitorのレコードが飾られているのを発見。
その瞬間「あっ、店名…」となったのだ。
配膳前の時点で加点式にずいぶんお店を好きになっていた。
僕はいつもお店で流れる音楽は基本問わないのだが、他店で聴かないようないい音楽が流れているとやっぱりその店が好きになる。ちなみにこのお店ではこの時以外だとDj klockやQ-Tipとか…こないだは折坂悠太の新譜が流れていた。
そうこうしているとカレーが運ばれてくる
スパイスプッシャー164に定番は存在しない。日替わりの3種のカレーのみのメニューとなっており、仕込み時に店主がTwitterでアナウンスしてくれる。
僕はいつも「トリプルあい盛り」を頼む。
全く同じ味のカレーが出てくることはほとんどなく、全て店主の研究と遊び心の中で常に微妙に進化していく。牡蠣、栗、蛸、ホタテ…季節などその時々で全く違う味を楽しめる。
そして美味しい
そしてこの3種のカレーをそれぞれ楽しみ、最終的には添え物のアチャールも含めてぐちゃぐちゃに混ぜ合わせて化学反応を楽しむのがこの店のやり方なのだ。
(実際に店主からそう楽しむよう言われる)
インダストリアルな音楽を聴きながらスパイスの化学反応を味わう瞬間はさながらトリップする感覚で、このお店でしか味わえない至福の時間だと思っている。一人で食事する際イヤホンを外す数少ないお店。
選択が求められるこの時代に、ナイーブな僕はナイーブな店主が選んだカレーをぐちゃぐちゃに混ぜて腹を満たす。
僕はいつも持ち前のシャイさで少し話しかけるくらいしかできないが、いつか店主と飲みながらいろんな話を聞いてみたいと思っている。そんな日を夢見ている。
やっぱり若い女性やキラキラした人々が行列をなすお店なのだが、僕たちのようなひねくれものにもしっかりと席を用意してくれてそういう人たちが安心して過ごせるルールがある。
選択に疲れた時はまたスパイスプッシャー164でその日しか味わえない不確定なカレーを食べて、ささくれ立った心ごとぐちゃぐちゃにして胃にぶち込む。
そのくらいの選択ならしてもいいかなって思う