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Written by原田 透子
MOVIE

青い春のすゝめ

青い春のすゝめ

青い春のすゝめ

不良と青春の親和性はすさまじく、暴力的でさえある。

そういう乱暴さはちょっとだけ美しい。

かつて大学1年生だったわたしが、その暴力にタコ殴りにされた映画の話をする。

 

『青い春』は2002年に公開された豊田利晃監督の映画である。

松本大洋氏の同名短編漫画集を原作としており、そのうち「しあわせなら手をたたこう」をメインベースに「夏でポン」「鈴木さん」「ピース」の4作品を織り交ぜた群像劇だ。

 

▼以下ざっくりとしたあらすじ

卒業式の日、お礼参りと称し教師を追い回す不良の先輩を眺めながら「ベランダゲーム」と呼ばれる度胸試しにいそしむ次期3年生の6人の少年。屋上の柵の外側に掴まり、失敗すればコンクリートの地面へ真っ逆さまというなかでいちばん多く手を叩けた人物が学校の番長を張るという、伝統のゲームだ。

仲間のなかでもとりわけクールな性格の九條は、歴代番長の記録をもしのぐ8回という記録をたたき出すが、彼にとってはそのゲームはおろか学校を仕切るということすらもどうでもよいことだった。

夢の終わり、進学、就職。輪郭の見えない漠然とした未来は不安となり、不良少年たちを取り巻く。「ここは天国だよ」と言った学園生活の終わりもなんとなく感じている九條は、得も言われぬ焦燥を感じながらも無為に過ごすほか方法が見当たらないようだった。

一方、幼いころから九條に憧れていた青木は、せっかく頂点に立ったというのに釈然としない親友にだんだんと腹を立て、やがて軋轢が生まれてしまう。ささやかないさかいから始まったすれ違いは、やがてふたりのあいだに暗く濃い影を落とすのだった――。

 

物語で印象的なのは、徹底的に「外」を排除しているという点だろう。少年たちのバックボーンは、台詞のなかで説明的に組み込まれている以外に一切の描写がない。そして彼らの青い春はすべて、学校の敷地内で完結している。敷地の外に出たもの、あるいは外を匂わせたものには瞬く間に物語の終わりがやってくる。

 

不良が登場する作品で「どうして彼らは制服をまとい、きちんと学校にやってくるのだろうか」という疑問を持つひとも少なくないだろう。それはまさしく、不良(あるいはヤンキー)が学校のカウンターカルチャーであることに起因する。カウンターカルチャーの説明については割愛するが、端的に言えば不良は学校というくくりがなければ存在できない生き物ということだ。

制服を着て、学校という媒体を背負い初めて、彼らは不良として成立する。

 

『青い春』はその排他的な作りによって、学校に反発しているにもかかわらずその場所がなければ実態を失う、不良の皮肉な性質をすくいあげている。そうすることで、じゃあこの天国とも思える場所から出た自分はいったい何者になるのだろうか、といったような少年の漠然とした不安や焦燥の輪郭を際立たせているのだ。と思う。

 

不良の儚さよ。

 

この映画の最たる魅力は、そういった少年たちの刹那的で儚い生き方を、擁護するわけでもなく、かといって批判したり哀れんだりするわけでもなく、ただそこにあるものとして淡々と描き切っているところだ。

それは、本来青春という言葉が人間におけるある一定の期間を指すものに過ぎない、ということに似ている。

 

作品のなかにあるのは、若い命のしなやかなきらめきなどではなく、人生の春と呼ばれる期間に彼らの身に起こったある「事実」の羅列だ。

 

少年たちの心情を明言させることを避け、そこで展開する「事実」に重きを置いて見せるのはある種の冷たさがあるが、同時に、フィクションにおける不良のファンタジー性を前面に押し出した『青い春』にすさまじいリアリティを持たせている。

「青春とはまばゆいものである」みたいな固定概念を吹っ飛ばし、人の数だけ生き方があるんだから、こういう人生歩んじゃうひともきっといるよね、こんな人間関係もたぶんあり得るよね、というかなりヘビーな多様性をいきなり突き付けてくるのだ。

 

さらに追い打ちをかけてくるのが、キャラクターの内面に切り込まないことで生まれる物語の余白だ。

作者の意図するところかどうかは不明だが「考えろ!」と言われているような気になるほど明確な余白が、『青い春』には随所にある。

考えろと言われて考えないわけがないので考えるのだが、余白を埋めれば埋めるほど自分の首が絞まる。どれだけ考えたところでどうしたって、頭のなかの彼らは幸福にはならないからだ。

 

めちゃくちゃしんどくなってきた。

 

初めて観たとき、バカでかいスクリーンの前で四肢を完全に弛緩させ、エンドロールで流れるTHE MICHELL GUN ELEPHANTのドロップを呆然と浴びていたのを書いていて思い出した。

まさしく、なめつくしたドロップの気持ちである。薄く小さくなり、唾液でぬらぬらと光っている。

今でも見返すととてつもない虚脱感に襲われるし、正直なところこの瞬間もかなり虚無だ(見返した)。

 

この映画を最初に観てからもうずいぶん経つが、実のところいまだに適切な勧めかたがわからないでいるのだ。

作品を観たことがあるひとはたぶん、「雪男のストーリーは切ないだろ!」とか「九條と青木の関係性に迫れよ!」とか思うかもしれない。わたしなら思う。

すっごくわかる。迫りたい。

でも何も知らないでいてほしい。知らないまま、心がぺしゃんこにされる衝撃さえ味わってほしい。

 

これだけ書き連ねてもなお、人に勧める際の正しい言葉だけはさっぱり浮かばなかった。

結局のところ「観るとしんどくなる」という部分に素晴らしさが集約されすぎていて、「観るとしんどくなるけどいい映画だよ」としか言えない。

 

ただ観てほしい。できれば首を絞めながら埋めた余白も、きっと見せてほしい。

なんて言ったらいいんだろう。

 

わたしと一緒にタコ殴りにされませんか?

 

絶対に違うな。

原田 透子

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