
閑散な秋とインディロック

閑散な秋とインディロック
突然だが僕には近所をうろつく癖がある
老後が心配である
秋になると音楽を聴きながら放浪したくなる。
特にUSインディロックを聴きたくなる季節だ。
放浪といっても近所をあてもなくぶらぶらするだけの
「あくまでも不毛な過ごし方」
1日の終盤に急遽思い立ったように外に出て、ただただ季節の空気感になんとなく浸りながら音楽を聴いてぶらぶらと歩くわけだ。
改めて老後が心配である
今年もうろつきがいのある季節がやってきたので
秋にうろつきながら聴きたいUSインディアルバム
エピソードを交えながら何枚かお話したい
● James Iha – Let It Come Down (1998)
Smashing Pumpkinsのギタリストのソロアルバム。シンプルなアメリカンインディギターロックながらいい感じに青臭くてカラッとした空気に混ざっていつも気持ちを柔らかくしてくれる大好きなアルバム。聴いているとノスタルジックな気持ちになり、大学生の頃によく聴いていたのを思い出す…
懐かしく思うと同時にこれを教えてくれた先輩のことを思い出した。
僕は18歳の頃に大学進学のために新潟から神奈川県湘南に引っ越すことになったのだが、
最寄りの駅前に音楽好きが歓喜するような
「いい品揃えの中古CD屋」があった。
最高の環境である。
もちろん当時の僕は「これは運がいい」と心躍り何回も通うのだが、その中で色々あって一人の店員の男性と仲良くなった。
僕はその人を「先輩」と呼び慕うようになった。
アルバイト代が出るたびに何度も通っては中古CDを買い漁るのがライフワークとなった頃、ある日またいつものようにその中古CD屋へ行くとちょうど先輩が働いていた。いつものように世間話をしていると先輩から誘いがあった。
「今度海沿いにあるレコードバーの店主やることになったから、よかったら今度おいでよ。」
誘いはとても嬉しいが兼ねてから
「呼ばれて行ってみたら誘ってくれた人が他の人とずっと話している」という今尚続くトラウマから甚だ憂鬱になる…とはいえせっかくの誘いだ。10代の青い心で奮起した結果ドキドキしながらも行くことにしたのだった…
レコードバーは海沿いの雰囲気の良いお店だった
キャッシュオンでお酒を注文したらあとは音楽を聴きながら先輩と話をする…素晴らしい空間だと思った。
最初は僕が好きそうだからとMods系のSmall FacesやSpencer Davisなどを流してくれたが、せっかく来たのでと先輩のおすすめが聴きたくなってリクエストすると「じゃあ今の気分で〜」と曲を流してくれた
● Wilco – Yankee Hotel Foxtrot (2002)
暖かくて乾いた雰囲気と適度に力の抜けたギター。
他の曲を聴いてこの空気を感じると
「アメリカっぽい」と勝手に思ってしまう。
優しいビート感に深く響く声が乗って揺れる…今ではとても座りが良く落ち着く大好きな作品だがこの頃は新鮮に感じた。
なんとなく聴いてきたジャンルながらここでお酒を飲みながらゆっくり聴いた時に最高な気分になる。
僕はここからUSインディロックにどっぷりとハマっていった。
その後もアルバイトが休みの日は講義が終るとレコードバーに人知れず通っては音楽収集を行う。布教熱心で心優しい先輩は気に入ったアルバムがあると先輩がCD-Rに焼いてくれるようになり、休日はそこで得た音楽を聴きながら近所をぶらぶらするのが日課となっていった。USインディ以外にもEMOやポストロック、エレクトロニカ、ジャズファンクなどもこの先輩から学んだ。
彼氏に影響されてフェイバリットをころころ変える女の子のように僕の価値観は塗り替えられていった。
●Elliott Smith – Elliott Smith (1995)
インディーレーベル時代の2ndアルバム
エリオットスミスは本当にどのアルバムも素晴らしいのだが、個人的にうろつきながら聴くにはこの作品。
表向きはニックドレイクを思わせるアコースティックアルバムって感じなのだが、いい感じの暗さが裏打ちされてグランジのようにも聴こえてくる。彼が常に放つ物悲しさが秋の空気感に最高にマッチしていて、秋の閑散とした湘南の海をこのアルバムを聴きながらぼーっと歩くのが好きだった。
90年代といえば若者がガレージでバンドをやり、自分たちで録音して売り出すという「DIY」が盛んだった時代で、
パンクロックにフォークやカントリーの要素が混ざってなんともゆるい雰囲気と狂気が同居したインディバンドがたくさん登場した。
僕は表舞台の有名なバンドしか知らなかったわけだが、先輩の紹介をうけるうちにUSインディの持つカラッとしたゆるい雰囲気に完全にやられてしまい、今では最も好きなジャンルといってもいいくらいこの先輩の布教に洗脳されてしまった。
いい意味ね…いい意味の洗脳。
そこから時は経ち、
就職からバタバタと引っ越して東京に住んでいた頃の僕は、日々の仕事のストレスを忘れて現実逃避するために、やはりインディロックを聴きながら街中をぶらぶらうろついていた。
● Grizzly Bear – Veckatimest (2009)
少し雰囲気は変わるがグリズリーベアもUSインディロックでとても好きなバンド。
ユルさは少なめだがサイケっぽさもありつつコード感やUSらしい哀愁ある物悲しい空気感が夕方に外で聴きたくなる。
2ndのYellow Houseの方が聴きやすいけどこのアルバムが特に好き。
● Big Thirf – U.F.O.F (2019)
そして近年はインディフォーク系のアーティストが大変多く活躍しているが、その火付け役でありながらベッドルーム路線ではなく90年代のUSインディロックらしさを持ちつつ特異点として別格の存在感を見せ続けているBig Thirf…
こういうのが出てくるから「USインディ最高…」
って定期的になっちゃうんだよな。
Yuckが出てきた時も同じこと言ってた気がするが…
先輩はというと引越してからは全く会う機会が無い。
湘南に住んでいたのも10年前でSNSの繋がりなども無い時代だったから先輩が今どうしているかも知らない。
そんな尻切れな関係ではあるが今でもとても感謝している。
● Pavement – Terror Twilight (1999)
そして色んなことを思い出して結局この記事を書きながらPavementを聴いている。「Lo⁻FiといえばPavement」というくらいアイコニックなバンドが解散前にリリースした作品は「成熟したユルさ」すら感じる素敵な作品で、僕も擦り切れるほど聴いたアルバム…
改めてこのアルバムが持つ空気感こそ
僕が近所をうろつきながら味わいたい
「ユルさと哀愁と心ばかりの狂気」
そのバランスなんだなと思う。
自分から見つけて好きになったジャンルでは無いのに
その後も出会う人たちはこの頃好きになった音楽から共鳴することが多い。
「なんともいえない付き合い」を感じる不思議なジャンルだなあと思う。
きっとあの時先輩から変な脳チップを埋め込まれたのではなかろうか?
今でも怪しんでいる。
この記事を読んだ後
仮に誰かがこの中の何作かを聴いて影響をうけて
「うろつき系USインディリスナー」
が各地の路地裏に多発したりしたら…
よしんばそんなことがあったとしたなら…
気持ち悪いのでその時は僕は家で聴きます。
以上
(最後に僕が秋にうろつきながら聴きたいUSインディロックのプレイリストを載せておきます)