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Written by原田 透子
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お芝居を「読む」

お芝居を「読む」

お芝居を「読む」

芝居が「読め」るんだというのは、シェイクスピアだとかベケットだとかの書籍が出ていることで形式的にはわかっているつもりだったけれど、実際に読むようになるとこれほどありがたいものはないなと感じる。

 

というのも、お芝居ってその場限りのものであることが多く、機会を逃すと一生まみえることができない代物でもあるからだ。

当然、ライブの臨場感を味わうに越したことはないとわかりつつも、ふとした瞬間にかつて行われた公演の存在を知ったときに、物語に触れる手段があるのは幸運なことである。

 

わたしは今年、紆余曲折あってケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERAさん)氏のお芝居にめちゃくちゃにハマり倒した。

学生時代、さんざん下北沢に入り浸っておきながら、さらには推しの所属する劇団でありながら、KERAさん及びナイロン100℃を通ってこなかったのは大変不徳のいたすところだけれど、そもそもこれまた紆余曲折あって演劇というものを避けていた、という恥ずかしい言い訳をしておく。

 

始まりは「ナイロンのお芝居ってなにかで観られないんだろうか」というところからだった。
どうやらDVDを販売しているということは分かったものの、公式らしいサイトの通販では軒並み販売を終了しているし、AmazonだのYahooだののECサイトではとんでもなく値段が吊り上がっているしで、DVDの購入はいったん諦めた。

そんな折に目に入ったのが、この自選戯曲集だった。

 

 

ほぼ鈍器である。もしくは辞書。

 

この戯曲集には、2008年から2018年のあいだにナイロンで公演された戯曲が5選、まるまま掲載されている。
映像で見られないやるせなさをそのまま指先に集中させ、息をするようにポチった。

 

ところで戯曲というのは、演劇を上演するにあたって書かれた脚本だ。
基本的にト書きとセリフで構成されていて、戯曲を(読み物として)読む、というのはつまるところ上演台本を読む、ということになる。

 

わたしはこの百科事典みたいな戯曲集を、3日足らずで読み終えた。

 

正直なところ、帯に書かれた「不条理演劇」も、KERAさんの真骨頂ともいえる「ナンセンスコメディ」もよくはわかっていなかった。

 

が、信じられないくらい面白かった。

 

あえて言葉にすれば、下劣、不謹慎、鬱屈、陰鬱、という感じなんだけれど、このどうやったってマイナスなセンテンスをおよそひとの道理にはそぐわないエネルギーとセンスで笑いに換えている、というのがわたしの印象だ。

 

なので、物語は普通に怖いし、昏い。
怖いのに、声を出して笑ってしまう。
こんなに不謹慎なのに、ゲラゲラ笑っている自分がまた怖い。

ちなみにこの戯曲集でのわたしのお気に入りは、いちばん初めに収録されている
「シャープさんフラットさん」
という作品だ。

 

 

そう、余談だが、DVDを軒並み販売終了にしていた公式サイトは、どうやらプロダクションのクラブ会員限定サイトとして移転していたらしかった。

 

そういうわけでご覧の通り、映像も買った。

 

シャープさんフラットさんは、2008年にナイロン100℃の15周年記念公演として上演された作品で、ホワイトチームとブラックチームでキャストを変える、二本立て興行をおこなったナイロン史にも類を見ない豪華な演目だ。

 

舞台は1990年代初頭。バブルの崩壊間近の世の中で、「笑い」に人生をかける劇作家の男が、笑いを追求するあまり狂気に飲まれていく。

 

奇天烈なキャラクターたちとでたらめなセリフの応酬は紛れもなく喜劇だけれど、笑えば笑うほど浮き彫りになるのはあまりに陰惨な悲劇、という構造で、これまで(あるいはこの作品以降も)KERAさんが描いてきた【不条理演劇・ナンセンスコメディ】と呼ばれる作風がどういうものであるか、といったジャンルそのものを理解するのにふさわしい作品だ。と思う。

 

不条理演劇、ナンセンスコメディという分野を知るための参考書、といったところだろうか。

ともかくジャンル初心者のわたしにもわかりやすく、少しばかり理解できたからこそ衝撃的だった。

 

 

DVDが購入できることが分かったのなら、もう戯曲は読まなくてもよくなったんじゃない?という気もするだろうけれど、お芝居を観ることと戯曲を読むことは全く別物だ。

(そうである前に、こうして映像を手に入れられたのは、ナイロン100℃がたまたま多くの作品をDVDとして残してくれているファンや新規に優しい劇団だったというラッキーに他ならない。)

 

どちらがいい、とか、どういう順番で目にするべきか、とかそういう問題ではない。
戯曲がなければ芝居はないし、と同時に芝居は目で見て(できればライブで)体感するものだとも思う。
というか、どちらにも触れるのがいいに決まっている。
それでもやっぱり、お芝居を「読む」というのは「観る」のとまた違った趣があるのだ。

 

文字に書かれたものは過ぎ去らない。
紙面の上にあり続け、映像を巻き戻したり早回ししたりするのとは別の種の反芻の仕方ができる。
舞台の上で経過する流れに乗り刻々と変化するものを、今再びじっくりと考える余白があるのは出版物ならではだろう。

 

KERAさんの戯曲を読んでいて気が付いたのは、映像を先に観た作品よりも、戯曲を先に読んだ作品のほうが、どちらも鑑賞したあとの後味の悪さが大きかったことだ。
後味の悪さを大小で表現するのが正しいかは不明だけれども。

 

それぞれの物語が持つ性質というのもなくはないものの、それを抜きにしたってKERAさんの作品に含まれる「不条理さ」の部分を理解しやすいのは、戯曲を先に読んだ作品ばかりだった。

 

演劇にはある種の爽快感、のようなものを感じる。
劇場を出たあとは大抵、富士急ハイランドのジェットコースターに乗ったあとみたいな不思議な虚脱感に見舞われる。
それは演出によって作られたリズム感とかスピード感とかによるものなんだろうけれど、戯曲にはそれがない。
つまり、シーンに描かれた下劣、不謹慎、鬱屈、陰鬱といったものものを戯曲で初めて物語に触れた際に、ソリッドかつダイレクトに受けとったのだ。

 

わたしは色々と思いを巡らせるのが好きな割に思考のスピードが恐ろしく脆いので、過ぎ去っていくものを考えながら追うことがかなり苦手だ。

一度きりしか観られない公演なんかだと、物語の真意を掴めなかったり、仮にその真意にたどり着かなくとも自分なりの考えすら出せないこともままある。

 

そうでありながらどうも、物語を一過性のアトラクションとしてやり過ごすことができない。

 

そういう人間にとってお芝居を「読め」る、というのは猶予を与えてもらえるようでやはり、ありがたいものである。

原田 透子

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