
ひとりでライブに行ってきたはなし

ひとりでライブに行ってきたはなし
昨年末(1ヵ月もたっていない過去を昨年というのはなんだか不思議な感じがするよね)、ストレイテナーというバンドのライブを見に新木場コーストへ行った。
ちなみに、前回の記事に書いた舞台の前日のことだ。
怒涛の推し週末で情緒が若干おかしくなった。
ストレイテナーを好いてもうずいぶん経つ。
中学生のころ、SCHOOL OF LOCKというラジオ番組で流れたMerodicstormって曲に痺れて、翌日猛ダッシュで近所のツタヤに並んだテナーのCDを軒並みレンタルして帰ったのを今でもはっきり覚えている。
人生で初めて、誰から教えられるわけでもなくハマり倒したバンド。
もう15年くらい前の話だ。怖。
それ以来わたしは、いろんなバンドにハマったり離れたりしていままできたわけだけれど、ストレイテナーだけは変わらない熱量でずっと好きだった。
実はちょこっとだけバンドをやっていたころもあって、そのときにテナーのコピーも何曲かやったことがある。
コピーもオリジナルもいろいろやったなかで、演奏していていちばん気持ちよかったのはMerodicstormだったなあ。
ところがわたしは、テナーのライブに行ったことは一度もなかった。
というか、ライブに行ったことがそもそもあまりない。
(エセ)バンドマンだったくせに、同世代のバンドマンやライブキッズが怖すぎて、引っ込み思案なわたしにとってライブというイベントはハードルが高かった。
そう、引っ込み思案なわたしには。
行けば楽しいのはわかっているのにいろんなものを拗らせまくっていたわたしは、当時SNSを賑わせていたライブキッズたちのマナーの悪さとか、ファン同士の壮絶なもめごととか、サークルモッシュでもみくちゃにされるのなんかを観てるといつも、「ココには行けないなあ」とか思って、イヤホンを耳に突っ込むばかり。
ライブはもっぱら、DVDを買ってひとりで観ていた。
OJが正式加入してすぐの、Hello Miss Weekend Tourを見られないのだけがいまだにイタい。
ARTをやめて音楽から離れたOJのバックグラウンドを想うと、ぜひ観ておきたいライブだったな……。
結局、大好きなはずのストレイテナーを初めて生で見聞きしたのは、2019年のNANA‐IRO ELECTORIC TOURだった。
初見でとんでもねえライブに行ったなという自覚はある。
そして今回の、Crank up Tour。
本当は昨年初頭に回っていたApplause Tourにも行く予定でチケットもとっていたんだけれど、コロナのばかのせいで泣く泣く参加を断念。
(いまだにスタンプの押されない電子チケットだけがむなしくデータで残っている。)
前もって行われていた、Crank in Tourの追加公演として開催された今ライブのチケットを奇跡的に手に入れたわたしは、晴れて初めてのワンマンライブ参加にいたったわけだ。
しかも初めてのひとりライブ。
ライブが怖くてたまらなかった過去のか弱いわたしを考えると、信じられない進歩だ。
子どもを産んでからのわたしはなんだかたくましい。
当然、ライブ賛成経験の乏しいわたしは新木場コーストへ行くのもこれが初めてだ。
初めて行くテナーのワンマンライブが奇しくも、1月いっぱいをもって営業を終了するというコーストで観る最初で最後のライブになった。
ライブは言わずもがな最高だった。
わたしはテナーのメンバーがライブで、いつもニコニコしながら演奏しているのが大好きなのだ。
椅子の上に立ってフロアに足をかけるおなじみのシンペイくんも、ちょっと口の端を持ち上げながら観客をあおるOJも、元気いっぱいに動き回るひなっちも、なにかをかみしめるみたいに微笑みながらまぶたを閉じるホリエさんも、これまで画面のなかでしか観たことのないすべてが目の前で巻き起こっていることにめちゃくちゃ感動して、最初の3曲はずっと泣いてしまった。
数少ないライブ経験のなかでも、あんなに涙が止まらなかったことはない。
28歳、好きなバンドがライブをしてることでこんなに泣けるのかと、ちょっと自分にも感動した。
祈りみたいなかたちに両の手を握り合わせながら、「ああわたしはまた必ずこの『俺たちストレイテナーっていいます』を聞きにいかなきゃならないな」とか思ったりなんかして。
でもどういうわけか、こんなんだったらもっと早くから行っておけばよかった、なんて気はあんまりしない。
負け惜しみとかでなく、ほんとに。
ひとの目ばかりが気になって、ライブ会場ですらどう振る舞うかを想像しては周囲を恐れていた過去のわたしには、今回みたいな楽しみ方はきっとできなかった。
ライブ会場って面白くて、コロナ禍による全席指定の仕様がそうさせている部分もあるんだろうけど、人間の物理的な動きはないのに感情のうごめきがよく見える。
当然その矢印はステージ上のストレイテナーに向けて一心に注がれていて、でありながら楽しみ方はひとそれぞれで。
高らかにこぶしを振り上げるひともいれば、申し訳程度に体を揺らすのみのひともいるし、わたしのように祈るみたいに両手を握り合わせて微動だにしないひともいる。
わたしはずっと、手を挙げなきゃいけないのかな、ノリノリでジャンプしなきゃならないのかな、とかどうでもいいことばかりが気になって、となり近所のひとに「ノリ悪いヤツだと思われたら怖いな」なんて思っていた。拗らせてんなあ。
当たり前にそんなことはないんだけれど、この当たり前を知るまでにずいぶん長い時間がかかった。
わたしには詳しく語れるほどの音楽知識はないし、楽曲を作ったり、多分もう演奏したりする力もない。
こういう音楽についての浅学さも、なんとなくライブから足が遠のいていた要因だと思う。
それでも確かにストレイテナーはわたしのなかにある『音楽』に他ならなくて、いろんなバンドマンが言っている「好きってだけでいいんだよ」みたいな言葉の真意を、まさにテナーのライブで思い知った。
まあ、良くも悪くもお前のことなど誰も気にしちゃあいない、ということだ。
台無しである。
出典:Teller Sony from Spotify