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Written by佐藤 徹平(satch)
MUSIC

SUSHIを嗜むようにレコードを

SUSHIを嗜むようにレコードを

SUSHIを嗜むようにレコードを

告白したいことがある。

 

 

日々レコード屋さんに通い店内の棚をくまなく漁ることを喜びとする僕だが、ここ数年購入したもののほとんどは、100円均一のレコード箱から見つけ出した物である。1000円以上の物を買った覚えが、ない。

 

 

告白というにはみみっちい内容で申し訳ない。

単純に、新品を買うほどのお金がないだけである。

 

というか最近のレコードは値段が高い。

 

プレス数が少なくなり、ジャケットや盤そのものの品質は向上しているのだが、いかんせん高い。

とはいえ、なにも怒っているわけではないし、価格を下げてほしいとも思わない。むしろ本来のレコード製造にかかるコストを考えれば適正とさえ感じている。

 

中古盤はどうだろうか。いわゆるディスクガイド等に掲載されるような名盤などにはそれなりの値札が付いているが正直言ってそれも高い。同じ内容のCDがその半分以下の価格で陳列されているのを見ると、複雑な気持ちになってしまう。

 

そんなレコード店で最前線には並べず、ひっそりと店舗の片隅に追いやられながら僕のようなお金に余裕のない音楽ファンの耳を肥やす日を待っている者たちがいる。

 

 

それが100円均一レコードである。

 

 

中古レコード店では100円均一のレコードが販売されていることが多い。

というか、ほとんどすべてのレコード店には専用のセールコーナーが存在する。

 

クラシックから歌謡曲のアルバム、かつてディスコやクラブの夜を彩ったであろうHIT曲の12インチシングル盤が段ボール箱の中に一緒くたに収められ、店内の片隅や軒先に放置されていることが多い。段ボール箱ひとつにはおよそ70枚ほどが収納できるのだが、店によってはその段ボール箱が10箱ほど並んでいることもある。売り場面積で考えるとそれなりの物量だ。

 

この安価な“投げ売り段ボール箱”は収集家の間では「エサ箱」などと呼ばれ親しまれている。

レコード購買中毒者たちがこの箱に群がる様子は飼料を貪る家畜を連想させるということだろうか……。

 

この蔑称は少しだけ辛いものがある。

 

 

僕はレコード店に入るとまずは新譜や新入荷コーナーの棚の前に足を運ぶふりをして、その導線内でエサ箱の設置コーナーが移動していないかを確認する。一等地の棚をひととおり物色した後で「今日の入荷はめぼしいものがないな」といった風に少し首をかしげてから目当てのコーナーに向かうのが僕の流儀だ。入店から一目散に100円均一コーナーに向かうのはスマートではない。断っておくが、高額なレア盤や人気盤に興味が無いだとかそんな負け惜しみを言いたい訳ではない。

 

 

レコード愛好家としての姿勢を崩したくない。ただそれだけだ。

 

 

この一連の流れはたとえば寿司屋でのマナーに置き換えられる。

 

席に座り、まずはおしぼりで手を拭くところからスタートだ。店主に本日の仕入れを聞いたり、店内に掲げられているオススメ品の表札を見てからゆっくりと注文する。

 

「はじめはサッパリした白身をお願いします」

※ここでは”店主にお任せ”という選択は省かせて頂きたい。

 

この流暢な場の運びは、レコード店においても成立する。”本日のオススメ”はすなわち壁面に掲げられた発売直後の新譜やプレミア価格のついたレア盤に相当するだろう。

 

寿司を食する流れでは、白身などの淡白なものから始め、トロや赤身などの味の濃いものへ順に食べていくのがセオリーとされる。

 

もちろんこの流れに囚われると、好きなものを自由に味わう喜びではなく「自分は食通だ」という無駄な自己満足が先行してしまうので注意が必要だ。寿司屋とレコード店に入る目的はあくまでも自分にとって美味となる最良のネタと出会うことである。この優先順位は常に念頭に置いておかねばならない。

新譜やプレミア盤を流し見した後に各ジャンル毎アルファベット順に並べられたプロパー商品をチェックする。ここの品揃えこそ、そのお店が力を入れている定番主力商品ということになるわけだが、寿司に例えるならば光ものに置き換えてもよいかもしれない。知ったかぶりでしかないが、江戸前の寿司屋の実力はコハダを食べればわかるという話を聞いたことがある。絶妙な酢締めのさじ加減が要求されるため、ここが甘い寿司屋のコハダは酢が効きすぎて美味しくないらしい。知ったことか。コハダは、旨い。

 

光ものとは青魚を指す安価な大衆魚全般のことで、主に寿司屋で使われる専門用語だ。そのなかでもコハダとアジはその代表格とされてきた。アジは低価格であるにも関わらず、その使い道は幅広く、様々な場面で活躍する。刺身はもちろん、揚げても美味だ。味が良いからアジと呼ぶらしい。ちなみに僕の好きな青魚はイワシとサンマである。

 

 

安価な寿司ネタが高級なマグロの大トロに劣っているとひとくちには言えない。同じように100円均一棚に並ぶレコード達が駄作であるということは決してない。

彼らだって一時はレコード棚内における第一線で多くの羨望のまなざしを浴びながら、時代の流れとともに市場価値が失われ人の目に触れなくなってしまっただけなのだ。

寿司ネタの代表格のマグロにしたって、かつては庶民が口にする部位と言えば脂が多く傷みやすいトロの部分で、赤身の部分のほうが高級とされていた時代もあった。価格と美味しさが比例するかどうかは別問題だ。

寿司に例えてばかりで申し訳ない。ちなみに僕が最も好きな寿司ネタは「イカ」である。

イカは旨い。鮮魚の脂で濃厚なうま味たっぷりとなった口の中をリフレッシュさせてくれる。ねっとりとした食感と噛みしめるごとに生まれる芳醇な甘みが堪らない。

 

 

レコード収集家が棚から目当ての作品を“掘り起こす”姿から、その所作を「dig」と称することがあるが、同様の行為が100円均一コーナーで行われる場合、僕は「salvage」と言うようにしている。

 

時代の変化と供に価値観は逆転し、店の奥隅に追いやられ、日の目を浴びる機会を待つ彼らを、僕は「救出」しているのだ。

 

 

かの有名な中国の歴史書「三国志」には蜀の国を興す劉備が山野に眠る「伏流鳳雛」こと諸葛亮を軍師として自陣に迎えるため、三顧の礼という最上級の敬意でもって丁重に招聘したという逸話があるが、僕はこれに近い尊敬の念を持ってエサ箱に向き合っているといっても過言ではない。

 

 

一見価値の低そうなモノの中に目を凝らしてみれば、きらりと光る宝石がたくさん埋もれている。

 

 

山の幸ならば、松林の根本に生える松茸や、湿った地中に繁殖するトリュフがそうだろう。

しかし僕が好きなキノコは「えのき」である。

 

 

レコード愛好家の世界ではかつて「レア・グルーヴ」「ノーザン・ソウル」といったマイナー作品を再評価するムーヴメントが好事家のリビドーを刺激し“LOST&FOUND”という新たな価値観を後世に再提示してきた。皮肉にもその中で取り上げられた作品の値段は希少価値も相まって高騰していくわけだが……。

 

 

先日、近所のレコード店の100円均一コーナーでいくつかレコードを購入したので紹介させてもらう。

 

■Earl Klugh / Finger Paintings(1977年)

 

 

■Funky DL / Day By Day(2001年)

UKのラッパー/プロデューサーであるFunky DLのこの曲は、Jazz/FusionギタリストであるEarl Klughのアルバムに収録された楽曲「Long Ago(And Far Away)」のメロディがMonorisic(DJ Deckstream)によるsampling手腕でHIPHOPビートとして生まれ変わった名曲だ。この「Day By Day」という楽曲はNujabesが率いたHydeoutproductionsからレコードのみでリリースされていたため、残念ながらSpotifyには配信されていなかったが、気になる方は是非レコードを購入してみてほしい。なんなら僕は同じ盤を2枚所有しているので、本当に欲しい方にはプレゼントしたって良い。

 

 

どちらのレコードもかつて所有していたのだが、断捨離と称して手放してしまっていた。久しぶりに状態の良い盤を見つけ、お手頃すぎる値段で買い戻せた喜びはあるのだが、正直100円で購入できてしまって良いのだろうかと切ない気持ちにもなってしまった。両盤ともにひと昔前は中古でも1000~2000円前後の価格で販売されていた人気盤だったように思う。しかし、これらの作品の価値そのものが時代とともに劣化したわけではないハズだ。もちろん聴く人の感性によってその味わいは変化するものなのだが、このレコードたちに収められた楽曲への評価は決して他の高額なレア音源に劣るという見方はされないだろう。

 

 

僕は「大衆魚」が好きだ。その多くは刺身にしても、煮ても焼いても美味しい。

これからもずっと好きだと思う。

でもいつかは最高級の大トロも食べてみたい。そう思うときだってある。

オトナになった今は、大トロの味も知っているから。

でもやっぱり、僕は白身や青魚を美味しく食べてお腹を満たすのが性に合っているんだな。

だって、安いから……。

 

佐藤 徹平(satch)

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