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Written by佐藤 徹平(satch)
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「淀川長治」になりたい。

「淀川長治」になりたい。

「淀川長治」になりたい。

淀川長治氏をご存じだろうか。

 

僕と同年代かそれより上の世代の方ならば、日曜洋画劇場というテレビ番組で眼鏡をかけた紳士を見たことがあるだろう。その日放送される映画のあらすじや見どころを解説し、最後は独特な抑揚の決め台詞“さよなら、さよなら、さよなら”で番組を締めくくる、あのおじいちゃんだ。戦前から映画雑誌に携わり、編集長として数々のハリウッドスターへの取材や宣伝を担当。人生を映画と共に生きた「伝道師」である。

 

中学生時代この淀川氏の映画解説を聞くのが大好きで、気になった作品はVHSに録画し、繰り返し見ては氏の圧倒的知識量で語られる映画批評に魅せられ、その全てを盲信していた。行き過ぎた信奉を拗らせるあまり、「淀川長治になりきる」ことへ使命感を感じるようになった僕は、いつしか日常の隙間時間の大部分を氏のモノマネトレーニングに充てるようになった。いま考えると相当、痛い。友達にはしたくない。そのモノマネを披露する相手は、ふたつ年下の弟だけだったので、そこは唯一の救いと言える。

(現在では淀川氏の映画解説すべてを見ることは難しいが、レンタルビデオ店には淀川氏の解説が収録された作品が並んでいることがある。特に、1925年のソビエト映画「戦艦ポチョムキン」は必見。ちなみに淀川氏が映画批評する際の話口調はとても早口である。活舌も良くない。)

 

淀川氏は残念ながら1998年11月に亡くなっている。この年の日本は長野冬季オリンピックの開催で沸く一方、世紀末を間近に控えながらも様々な社会的問題や不安がまだまだ根強く残る閉塞的な年だったように思う。その中で最も衝撃的だったのは5月に報じられたX-JAPANのhide氏死亡の報せかもしれない。

中学生当時、クラスメイトの中にはhide氏の熱狂的なファンも多く、hide氏死亡の報せに教室内は異様な雰囲気で包まれ、お通夜状態の友人たちが目に涙を浮かべながらX-JAPAN時代やソロ楽曲への想いを語っていた。ちなみ僕は同バンドのメンバーではTaiji氏(この年にはすでに脱退している。R.I.P)のファンである。音楽に夢中になりだした多感な時期。もちろん僕にとっても大変悲しいニュースではあったのだが、そのわずか半年後、さらに追い打ちをかけるかのように淀川氏の訃報が襲ってきた。

 

朝のニュースを見たあとの僕の精神的な消耗は激しいもので、いまで例えるならば星野源と新垣結衣両氏の結婚報道による「ガッキーロス」と同等の破壊力であったといえばわかってもらえるだろうか。社会人であれば確実に出社しないレベルのダメージを負っていたのは間違いない。

 

それでも全身全霊をふり絞り登校するsatch少年。

 

果てしない不安と哀悼の念を一緒に抱きながら、震える手で教室のドアを開ける。

きっとクラスメイト達も激しい悲しみに包まれているだろう……。

 

などということは当然、ないのである。

話題に出ないならまだしも、一部の生徒によって淀川氏の、淀川師匠の最高の決め台詞である「さよなら、さよなら、さよなら」がモノマネされ、あろうことか笑いのネタにされているのであった。

 

いや、本当に「さよなら」なのは、そうなんだけども。

 

なんなの。

 

てかお前のより俺の「さよなら、さよなら」のほうが圧倒的に完成度高いから。

今すぐ師匠の「アサシン 暗・殺・者」の名解説見ろ。

※「アサシン暗・殺・者」はリュック・ベッソン監督のフランス映画「ニキータ」のハリウッドリメイク作品。ブリジット・フォンダ主演、監督は「サタデー・ナイト・フィーバー」のジョン・バダム。暗・殺・者と一文字づつ区切られる副題にならって、淀川氏もア・サ・シンと発音していた。

 

 

この日僕は知った。映画を観ること、ましてやその解説を聞くことにいたっては、多くの人にとってさほど必要なことではないということを。

 

本当に?

 

いまや映画のレビューはインターネットで簡単に見ることができるが、そのレビューを書いた人の表情や熱のこもった語り口を感じることは意外に少ないように思う。かつては多く刊行されていた映画雑誌は減少の一途をたどり、淀川氏や水野晴郎氏のような映画解説を得意とする人物の露出も見かけなくなってしまったが、逆に映画の興行収入はコロナ渦前の2019年までは増加している。この結果は素直に喜ぶべきことなのだが、僕自身はというと、実はあんまり映画館には足を運ばなくなってしまっている。

いろいろな言い訳はあるのだけれど、僕の場合、映画や音楽、本などのエンターテインメントは、作り手以外の誰かから薦められることではじめてそれに触れてみたい欲求が出るものなのだ。ヒットする作品や話題作にはなにかしらの仕掛けや理由があるのだが、それだけが作品に触れる動機にはならない。

 

では映画を観るときに頼りにする情報はなんだろうか。僕のように、“誰か”の発言や感想を特別に信頼して選ぶひともいるのかもしれない。僕にとっての淀川長治氏の映画解説がそうだったように、もしかしたら、あなたの友達が話す熱のこもった感想が、最大の動機になるかもしれない。

淀川氏は映画解説するとき、いつも少年の輝きを持った瞳で楽しそうに映画の魅力を話していた。まるで友達に聞かせるように。断言するが、あんなにキラキラと映画の事を話す人をほかに見たことがない。ほんの5分くらいのお話のなかに、愛と知識がぎゅっと詰まった素敵なおしゃべりをしてくれる。そんな人から薦められた映画なら、見たくなってしまうってものではないか。

 

僕は、「淀川長治」になりたい。

 

■淀川長治のシネマトーク

■戦艦ポチョムキン

■X JAPAN

■アサシン暗・殺・者

■ニキータ

■サタデー・ナイト・フィーバー

■ブリジット・フォンダ

■リュック・ベッソン

■ジョン・バダム

■水野晴郎

 

佐藤 徹平(satch)

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