
チャリティのことづて

チャリティのことづて
この世にSF小説は星の数ほど存在するが、その中でも多くの人を惹きつけてやまないテーマといえば、やはり「時間モノ」だろう。
失われた時間や未来への希望と不安、埋めることの出来ない過去との隔たりに直面した瞬間に、人は何を想い行動するのか?
時間SFというテーマはロマンス作品と特に相性が良く、多くの作家と読者たちがこの題材に夢を馳せてきた。
今日は「時間」にまつわるちょっぴり切なくてロマンティックな一編を紹介したいと思う。
「チャリティのことづて」はウィリアム・M・リーによる1967年発表の短編小説で、ロマンティック時間SF傑作選「時の娘」に収録された物語。作者の情報は極端に少なく、また発表された作品の数も多くないようで、この一本は”埋もれてしまった名作”として読み継がれている。
※以降、作品のネタバレ的要素は極力控えてレビューをしようと思ったものの、作品に対する愛が深すぎるあまり感極まってあらすじ以上の感情を吐露してしまっている。その点をご了承のうえ読み進めてほしい……。
1700年代のアメリカに生きる少女チャリティは、ある日原因不明の熱病にうなされ床に伏せるようになる。唯一の肉親である父親や周囲の人々の懸命な介抱により一命をとりとめるが、それ以来不思議な夢を見るようになった。
視点が変わり、現代。聡明な少年ピーターも原因不明の高熱を発して何日も寝込むようになってしまった。朦朧とした意識の中で不思議な情景が目に映るようになる。
小川で水を飲む鹿、わら小屋の梁。自動車、空飛ぶ飛行機からの景色。
すこし不思議な熱病をきっかけに、別々の時代を生きるふたりの感覚が時を超え共有されるようになる。はじめは視覚にはじまり、嗅覚や味覚の一部をも共有するようになる。(なぜだか触覚の共有は難しい。)やがてお互いの意識の中で会話を重ねるようになって……。
この段階で尊さのダムが決壊寸前まできている。賢明なオタク諸氏ならばすぐに近代の名作を思い浮かべるだろう。「君の名は。」「時をかける少女」etc……。
ふたりの生きる”時”には、250年の隔たりがある。文明や価値観。変わりゆく変わらないもの。長い年月を経ても残り続ける小川の景色を共有し、いつしか心を通わせる少年と少女のやりとりは、僕たちが忘れてしまった淡い青春を思い出させてくれる。
(深いため息)
いや!なにこの胸キュンストーリー!!ありえなくない!?ベタof theベタ!ベッタベタよ!?最高最高!こんなん好きになるに決まってるじゃないの!やめてしんどい尊い!
(呼吸を整えながら)
取り乱してしまった……。だが、ひとつの短編小説を読んでここまで感情移入できる自分の豊かな感受性を誇りに思う。
物語は時を越えたカルチャーショック描写を交えながらふたりの淡い想いを丁寧に描いていく。察しの良い読者ならばこの後起こる障害について想像がつきそうなものだが、過去の時代においては存在しない魔法のような現象を話す少女は、当時の信仰や風習によって「異端」の目にさらされるようになる。窮地に立たされた少女を救うため、少年は現代に残された文献から得られる情報を頼りに奔走するのだった。
少年の助言により、少女に襲いかかった危機的状況は回避される。いっそう絆を深めたふたりではあるが、250年という”時”の隔たりは、過去と現代の価値観の相違をもってして、両者の間に大きな溝を落とすことになる。ただひとつ、少年と少女の交流の中で生まれた愛は”変わりゆく変わらないもの”のほとりで確かめることができたのだった。
いったいどんな方法で?
(過呼吸を落ち着かせるため紙袋を口元にあてながら、本を閉じる)
いや!なんなのこのロマンスの洪水!!これ「時をかける少女」超えてるじゃん!「すぐ行く…走っていく!」どころの速さじゃないわ!もうね!秒よ!時を超えて伝わる愛の速さがマクロスピード!奥華子さんの歌、最高!尊い!誰か~!誰か氏~!細田守氏か新海誠氏~!今すぐにこれをアニメーション映画にしてください~!!!!
※本作は1985年にテレビドラマ「新トワイライト・ゾーン」にて実写映像化されている。DVD/ブルーレイでのソフト化はされていないようだが、死ぬまでになんとかして視聴したい。(※邦題:時を超えたメッセージ)
この短い物語を、ありがちな恋愛小説やファンタジーとしてとらえることは容易い。だけども、恋という誰もが経験したであろう普遍的な感情を、”時”という目には見えない概念を文章的なガジェットを交えてみずみずしく描いた良質な作品は限られてくるのではないだろうか。SF小説というと難解な設定や文章から敷居が高いように思われがちだが、「時の娘」に収められた9編の物語は作家の有名無名を問わず、技巧派作品からノスタルジックな冒険譚まで、幅広い作風のものが並んでいる。月並みな言い方ではあるが、初心者から熱心なファンまで楽しめる一冊だ。
縁があれば、この物語が誰かの手にわたり”時を超えて”語り継がれていきますように。
■時の娘
■君の名は。
■時をかける少女
■細田守
■新海誠
■新トワイライト・ゾーン
■奥華子