
返してくれよ 〜ホラー映画と僕〜

返してくれよ 〜ホラー映画と僕〜
突然だが僕は怖がりだ
心霊スポットや肝試しは今も苦手だし
ホラー映画も昔は本当に苦手だった
しかし現在は毎日YouTubeでオカルト系のトークチャンネルを様々視聴している
流行り病の影響も相まってYouTubeにはオカルト関係のチャンネルも多くなり、よりカジュアルなトーク上での怖い話などに触れることができ、気づけば癒しですらある。
オカルト話が心のスキマにフィットした
オカルトや怪談、それにまつわるトークを聴くことに「怖い」と思うことは少ない。むしろ過度な盛り上げや身内ノリのわちゃわちゃした薄寒い空気も少なく、ただただ「興味深い」「会話が心地よい」とすら思って毎日ラジオ感覚で視聴している。内容の怖さに関しても歳を重ねることで恐怖心が麻痺して曖昧に気化されているような感覚がある。この麻痺に関しては自分でも不思議である。
オカルト話は好きだが
ホラー映画や肝試しは苦手
一見矛盾した嗜好とも思えるが、根本確かに僕は怖がりであり、高校生くらいまではそれが影響して意図的に「怖いもの」を避けて過ごしてきたのだ。
忘れもしない中学時代
友人の誘いを断れず劇場まで足を運んだ「リング2&死国」の同時上映。怖がりだった僕はギリギリまで拒んだが結局説得され、学校終わりの夜の上映に連れて行ってもらうことになった。
友人の親の車で送ってもらい、映画が終わる頃にまた迎えに来ると言い残し去っていったのだがすでに僕は憂鬱だった。
友人の「キツくなったら劇場を出てもいい」という慈悲に溢れた了承の元上映はスタートしたのだが…怖がりすぎた僕はあろうことかリング2の序盤、まだ貞子の一つも登場しない段階で「怖くなりそう」な状況に既に耐えられずギブアップし退場してしまった。
情けなかったし恥ずかしかった
しかしそれ以上に
怖くなるのが怖かった
2作品が終わるまでの間ひたすら待っていた。こういう時はとびきりPOPなFMラジオ番組を聞きながら過ごす。当時からバスケ部の試合の退屈な待ち時間をはじめ数時間1人でヒマを潰す才能だけは磨かれていた。
そんなこんなで
「自分はビビりで怖がりだ」
と自ら暗示という名のバリアを唱えることで怖そうなものをなんとなく遠ざけて生きてきた。
そんな自分の転機は大学一年生の頃だった
現在オカルト話が好きになってからもホラー映画そのものを進んで観ることは少ないが、ある経験から観ること自体はなんの問題もなくなった。つまり克服したのだ。
その時の話をして結びとしようと思う。
僕が大学一年生の頃に勤めていたアルバイト先での話だ。
ある日退勤後のバックヤードで先輩の女性2人と会話しているとホラー映画の話になった。僕もホラー映画が苦手な旨と先述の中学時代のダサいエピソードを話したりしていると、面白がった先輩の1人が突然思いついたようにこう言った。
「今からホラー映画借りて3人で観ない?」
店から割と近いという理由で僕の家で観ることになった。正直ホラー映画は憂鬱だったが当時ピュアだった僕には歳上の女性と徹夜で映画を観るなどまたとない非常に魅力的な誘いだったので、狼狽を必死に覆い隠すように「やだなあ怖いっすよお」などとおどけながらも二つ返事で承諾した。
言い出しっぺの方の先輩は少し間が抜けていてあざとさもあり、からかい上手でいつもペースを握られてしまう魅力的な人だった(当時店長と不倫しているという噂もあったりして人生経験の浅い僕はそれを聞いただけで俄然ドキドキしてしまったのを覚えている)。
退勤すると普段仕事着しか知らない先輩2人の私服を見たことにより狼狽リターンズがやってきたがそれもおどけて覆い隠しつつ、TSUTAYAにてJホラーの著名な映画を何作かレンタルして駅から徒歩10分ほどの場所にある僕の家へ向かった。
当時の僕の住むアパートは1K6畳。ぎゅうぎゅうに詰めればギリギリ3人座れるくらいのソファの真ん中で先輩2人に挟まれた状態という、バスケ部時代では味わうことのできなかった最高のポジショニングでホラー作品鑑賞は始まった。
ホラー映画を鑑賞することがこの回の主旨なので、このマンガのような状況にワクワクする自分と真面目な僕との戦いになるわけだが、怖いシーンが来るたびに両隣りの先輩が「きゃー!」と僕の腕にしがみついて下さるという鉄板すぎる展開に心の中の真面目な自分は完全敗北し、「怖いシーン」はドキドキのための舞台装置に成り下がってしまった。
特にあざとい方の先輩は途中から「怖くなりそう」くらいのシーンから抱きついて下さり、ピュアだった僕は「ホラー映画に集中しています」を保つことに必死になっていた
怖いシーンよもっと来い
怖いシーンよもっと来い
リング2の序盤で逃げ出した少年はもうそこにはいなかった。
BOYS BE…から引用してきたのでは?と思うような状況から、あんなにも怖がりだった僕もホラー映画をアトラクションとして捉えることができるようになった。不服ながら非常にやましい心でホラー映画を克服し、歪んだ楽しみ方を知ってしまったのだ。
ピュアだったのでただただホラー映画を観てドキドキだけして朝になった。先輩たちは帰路に着くことになり、1人の先輩は始発で帰るからと駅に向かって歩き出した。
もう一人のあざとい先輩はそれを見送ると、あざとくあくびをゆっくりとひとつ。その後にあざとくぐっと両手を天に伸びをしながらこちらに目を合わせ
「歩いて帰るのやだな〜。ねえ、自転車借りてもいい?」
とあざとく聞いてきた。
何度も抱きつかれて全日本チョロい男選手権1位状態になった僕はギアスに命令されているかのように当たり前に自転車を差し出し、先輩がふらふらと自転車で帰路につく後ろ姿を見送った。なぜかいいことをしたかのような清々しい気持ちと、あざとい先輩にあざとく弄ばれたことが尾を引いて気持ちよく眠りについた。
そんなこんなで
僕はホラー映画を克服した。
あれから18年
先輩、自転車返してくださいよ